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東京高等裁判所 平成元年(ネ)2906号 判決

控訴人(以下「控訴人X1」という。)

X1

控訴人(以下「控訴人X2」という。)

X2

右控訴人両名訴訟代理人弁護士

鈴木利治

被控訴人

(以下「被控訴人Y1」という。)

Y1

(以下「被控訴人Y2」という。)

Y2

(以下「被控訴人Y3」という。)

Y3

(以下「被控訴人Y4」という。)

Y4

(以下「被控訴人Y5」という。)

Y5

(以下「被控訴人Y6」という。)

Y6

(以下「被控訴人Y7」という。)

Y7

右被控訴人七名訴訟代理人弁護士

吉村駿一

主文

一  原判決主文第一項を次のとおり変更する。

1  控訴人X1は、被控訴人Y1、同Y2及びY3に対し、原判決添付物件目録記載の不動産について、前橋地方法務局渋川出張所昭和六二年一月一六日受付第四一〇号所有権移転登記の所有権更正登記手続(所有者同控訴人とあるのを、共有者同控訴人持分一〇分の七、被控訴人Y1持分一〇分の一、同Y2持分一〇分一、同Y3持分一〇分の一に更正)をせよ。

2  被控訴人Y1、同Y2及び同Y3の控訴人X1に対するその余の請求を棄却する。

二  控訴人X2の控訴を棄却する。

三  控訴人X1の原判決主文第三項に対する控訴を棄却する。

四  訴訟費用は第一、二審を通じてこれを四分し、その三を控訴人らの、その一を被控訴人らの負担とする。

理由

第一被控訴人Y1ら三名の控訴人らに対する請求について。

一  原判決八枚目裏三行目から同一五枚目裏三行目まで引用する。ただし、次のとおり訂正する。

1  原判決八枚目裏六行目の「争いがない」の次に、「(亡Aが本件物件のほかに財産を有してい旨(ママ)の主張立証はない。)」を加える。

2  同九枚目表六行目の「妻」を「当時の愛人」に改める。

3  同九枚目裏三行目及び同一〇枚目表三行目の「(一)」を「(二)」に改める。

4  同一〇枚目表四行目の次に、次を加える。

「したがつて、抗弁1(二)(3)(4)について判断するまでもなく消滅時効の抗弁は理由がない。」

5  同一〇枚目裏一行目の「乙第一〇号証の二、」の次に、「被控訴人Y4が撮影した」を加える。

6  同一四枚目裏七行目の「されず」の次に「(単に双方が総額を確認しあつた旨の書面が提出されているのみでは、前示本件の経緯に照らすと不十分である。)」を加える。

7  同一四枚目裏八行目の「もなく、」の次に「売主とされる控訴人X1の口座ではなく」を加える。

8  同一五枚目裏一行目の「多く」の次に、「(なお、控訴人らが本件物件の売買に基づく税金を支払つていることは、外形上売買の形式をとれば課税されるのは当然であるから、右疑問を減少させるものではない。)」を加える。

二  ところで、相続財産に属する不動産について単独所有権移転の登記をした共同相続人の一人から単独所有権移転登記を受けた第三取得者に対し、他の共同相続人がその共有権に対する妨害排除として登記を実体的権利に合致させるため右第三取得者に対し請求できるのは、所有権移転登記の全部抹消ではなく、共有持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続でなければならない。なんとなれば、共有権者は、自己の持分についてのみ妨害排除請求権を有するに過ぎないのみならず、他の共有権者はその持分を自由に第三者に対して処分することができるからである(最高裁昭和三五年オ第一一九七号同三八年二月二二日第二小法廷判決・民集一七巻一号二三五頁)。右は、本件のように、相続財産に属する本件物件について単独所有権移転の登記をした共同相続人の一人である控訴人X2に対する遺留分減殺請求権行使の結果、共有権者となつた被控訴人Y1ら三名が、右遺留分減殺請求権行使後に右物件について控訴人X2から売買を原因とする単独所有権移転登記を受けた控訴人X1に対し、右売買を通謀虚偽表示であるとしてその効力を否定し、控訴人X1に所有権移転登記の抹消を請求する場合についても同様というべきである。したがつて、被控訴人Y1ら三名の控訴人X1に対する登記抹消請求は、右被控訴人らの持分(各一〇分の一)の限度で認められるべきである(なお、右のように、控訴人X2控訴人X1間の売買は無効であるから、控訴人X1は登記を保持する実体上の権限を有しないわけであるが、その場合でも、被控訴人Y1ら三名は、保存行為を理由として登記全部の抹消を求めることは許されないものというべきである。なんとなれば、控訴人X1の登記が偽造等による全く無権限な行為に基づくものである場合には別異に解する余地もあるが(最高裁昭和二九年オ第四号同三一年五月一〇日第一小法廷判決、民集一〇巻五号四八七頁)、本件は、権利者である控訴人X2との合意に基づくものであるから、たとえ通謀虚偽表示により効力を有しないものであるとしても、その抹消は控訴人X2の意思によるべきであつて、控訴人X2の持分につき何らの権利も有しない被控訴人Y1ら三名が干渉すべき筋合いのものではないからである。このことは、もし控訴人X2が自己の持分についてのみ控訴人X1に登記を移転した場合に、たとえそれが通謀虚偽表示によるものであつたとしても、その登記につき、被控訴人Y1ら三名が、抹消を請求すべき理由を有しないと解すべきことからも、明らかである。)。

第二控訴人X1の被控訴人Y4ら四名に対する請求について。

被控訴人Y1ら三名の控訴人らに対する登記抹消請求の再抗弁について判示したとおり、控訴人X1は、本件物件の所有者とはいえないから、同控訴人の右被控訴人らに対する所有権に基づく明渡請求は理由がない。

第三結論

以上のとおり、被控訴人Y1ら三名の控訴人X1に対する請求は、本件物件の各一〇分の一についての所有権更正登記手続を求める限度で理由があるから認容するべきであり、その余は理由がないから棄却するべきである。同被控訴人らの控訴人X2に対する請求は理由があるから認容するべきである。控訴人X1の被控訴人Y4ら四名に対する請求は理由がないから棄却するべきである。

よつて、民訴法三八四条三八六条により原判決主文第一項を主文第一項のとおり変更し、控訴人X2の控訴を主文第二項のとおり棄却し、控訴人X1の原判決主文第三項に対する控訴を主文第三項のとおり棄却

(裁判長裁判官 武藤春光 裁判官 吉原耕平 池田亮一)

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